小出郷のホールですばらしいコンサートを主催してくれた木村りえちゃんは、打ち上げと宿泊の会場として大湯温泉の宿を用意してくれていた。
この宿、吉田屋はスタッフをしてくれていたもうひとりのりえちゃんの実家でもある。心づくしの手料理と新潟のおいしい日本酒の楽しい打ち上げ。
はじめてのゆかたに、てぬぐいではちまきをし、ユザーンと太郎さんにはさまれて嬉しそうに笑っているスティーブさんの写真が残っている。どうみても日本の気のいいおじさん。
以下、引き続き太郎の日記より。
「打ち上げ会場はコンサート会場から車でちょっと行ったところ、銀山の麓、大湯温泉の割烹旅館、吉田屋さん。夜はそのまま宿泊。
Steveさん、はじめての日本で、はじめての温泉。
それも、Old Traditionalな温泉旅館で。
これは本当に、どんな高級ホテルよりも、どんなに豪勢な料理よりも、Steveさんにとって最高のもてなしだったと思う。
出てくる料理をひとつひとつ、湯沢君が説明する。
これは、、えっとなんだろう、anyway, a kind of vegetable.
then, it's also a kind of vegetable.
then,, again a kind of vegetable.
そんな説明ともいえない説明を、嬉しそうに聞いてるSteveさん。
これは、、と次の皿を指して説明しかけた時、
「オー、イナリ!」
Steveさん、お稲荷さん知ってました。
カナダでお母さんが作ってくれたそうです。
言葉が詰まる。
戦時中は収容所生活を余儀なくされ、帰ってきたら家も何もかもなくなってたという彼の両親。そこから苦労して、Steveさん達を育て上げていった。
カナダで生まれ、カナダで育ち、一度も日本の地を踏むことなく亡くなっていったSteveさんのお母さんが、カナダで作ってくれたというお稲荷さん。
「日本で演奏することができて、本当に嬉しい」
とSteveさん。
穏やかで温かい瞳。
「父と母もきっと喜んでくれていると思う」
いつか日本に行ってみたいと願い続けてとうとう叶わなかった彼の両親。二人もきっと、Steveさんと一緒に日本に来てるんじゃないかと思う。
祖父母の代、日本を離れた明治の頃とは全然変わってしまっただろうけど、それでもここにはまだ、日本の古くて良いものがたくさんある。
このコンサートに関わることができて、本当によかった。
りえちゃん、みんな、どうもありがとう。 」