「いまね、親戚の方がお墓のお世話をしてらして、茂三郎さんの家には遠い親戚の方が住んでいる筈ですよ」
「茂三郎さんの・・・家?まだあるんですか!?」
敦子さんは、「あっちのほう」と指差すが土地勘のない私たちには見当もつかない。「歩いても行けるくらいの場所だけど」
「あの、良かったら、一緒に車に乗っていって教えていただけませんか?」ここまで来たら、おじいさんの家も行っておきたい。厚かましいのを承知でお願いしてみる。
「あ、もちろん、いいですよ!」ひとなつっこい笑顔の敦子さんは、嫌な顔ひとつせず、気軽に応じてくれた。
「ここですね」
敦子さんに案内されて到着した家は、お留守のようだった。広い庭を持つ、古い家屋。
胸がいっぱいになった。ここに、まさにこの場所に、スティーブさんのおじいさんが生きていたんだ。
まさか、下調べの旅でここまでたどりつけるとは夢にも思っていなかった。
家の裏に回ると、骨組みの透けて見える朽ち果てた古い土蔵が、かろうじて形をとどめた状態で立っていた。
一歩踏み込むと、その瞬間に崩れ落ちてしまいそうな蔵。土壁の落ちた隙間から覗くと、暗がりの中に、古い農機具や瓶などが見える。
スティーブさんへの報告のため、土蔵の写真を撮っていると、敦子さんがふと消えた。
お隣の「小田」という表札がかかったお家の玄関で、中の人と話をしていた。
この家は茂三郎さんの親戚筋の家だと言う。
後ろからふたりでのぞきこむと、敦子さんから話を聞いていたやわらかい瞳の老女が、どうぞどうぞ、と家の中に招き入れてくれた。