たろうさんの次の日記には、客として聴きに行った横浜のヨガスタジオでの演奏の感想が書いてある、スティーブ・オダという人の出す音がどういう音なのか、我々が何故ここまで彼の音楽に心酔してしまうのか、参考までに引用しておこう。
「今日の会場は横浜元町のヨガスポット。
ヨガスタジオのフロアの一画に布を敷き詰めてステージに。なんだかオーストラリアでのツアーを思い出す。
今日のセレクトはRaga Charukeshi.
いっさいの躊躇も迷いも探りもなく、出音の一発目、komal dha の身にまとったわずかなアンドーランが、すでに完璧にそのラーガのムードをただよわせている。
ため息がでる。
この人はなぜこうも自然に、それでいて完璧に、いきなりラーガの核心部へ入っていけるのだろう。なぜこの人には、その門戸が開かれているのだろう。
きっとその答はわかっている。
それは、この人自身が、いつもラーガの中にいるから。
そして、人生のすべてをそれに捧げているから。
彼のアーラープには、なんというか、作為がない。
こんなことができるんだぜ、という自慢もなければ、客を驚かせてやろうというような妙な気概もない。ひたすら、ラーガとしてあるべきままを、そのラーガの心のおもむくままを、丁寧に音にしていく。
その繊細さ。
その確実さ。
彼の凄さは、一見わかりづらいかもしれない。派手なフレーズやティハイがある訳でもない。速弾きで盛り上げる訳でも意外性のある音使いで唸らせる訳でもない。
彼の35年にわたる訓練の歳月はすべて、その音の繊細なコントロール、そしてラーガの理解へと向けられてきた。
その成果がここにある。
超常現象といっていい程の、確実な音運び。
どの音ひとつとっても、そのラーガのムードを帯びてない音がない。
流れの中で必然性のない音もない。
はるかに足下におよばない僕の目から見て、Steve Oda のラーガの安定感はもはや超能力と言っていい。
全部の音がキャバッ!という状態。
これだよ、これが聴きたかったんだと、身体の全細胞が声をあげる。
これだ。これがインド音楽だ。」